夏と花火と私の死体

夏と花火と私の死体 (集英社文庫)

夏と花火と私の死体 (集英社文庫)

ホラーでドキドキしたのは久々かも。というか本作はサスペンスというほうがいいのかも知れません。
「さみしさの周波数」を読んで以降敬遠していた乙一でしたが、今作は意外と楽しめました。
ストーリーはとても簡潔。殺してしまった少女の死体を必死で隠そうとする、小学生の兄弟の物語です。
個人的には、やはり死体隠しの追っかけっこが面白かったと思います。死体を隠す→見つかりそうになる→死体を移す、という簡単なサイクルのお話なのですが、書き方が上手なのでしょう、やっぱり面白いと感じました。見つかりそうで、ギリギリ見つからない。もう駄目だ、という状況で、ギリギリ勝ちを拾う。その紙一重の感じがたまりません。
ただ、乙一の作品でいつも思うことなのですが、オチでいまいちオチていない感じがするのですよね。そこがただただ残念です。伏線がストーリーと絡んでないように思うのです。どうしても。
ところで、この本の特徴的な人称については、巻末の小野不由美氏が非常に分かりやすく解説してくれてます(そしてその指摘は非常に的を射ています)。なのでその解説を読んでから、本編をもう一度読み返してみると、一度目とは違った印象で楽しめるため、一度で二度おいしい作品となっています。

そしてもうひとつ。実を言うと私自身は本書に収録されているもう一つの作品「優子」の方が断然面白いと思っています。純和風のホラーで、モチーフも良く、無駄がなく、理路整然としていて、きれいに怖い話として仕上がっています。ミステリファンには、少し物足りないかもしれませんが、読んで損はない作品です。

by蓬莱ニート