謎解きはディナーの後で

謎解きはディナーのあとで

謎解きはディナーのあとで

題名もさることながら、表紙見た瞬間にびびっときました。ええ、執事とお嬢様で推理小説。しかもよくよく作者を見ると、ユーモアミステリの達人たる東川篤哉じゃないですか。あまりにも自分好みのせいで、本を見つけてから1500円+(税)が財布から消えるまでさほどの時間はかかりませんでした。
 さて、この本がどんな本なのかと簡潔に説明するならば、「令嬢刑事、宝生麗子が事件現場で遭遇した不可解な殺人or殺人未遂事件を、運転手兼執事の影山が、お嬢様を馬鹿にしつつもいとも簡単にその謎を解き明かしてしまう短編集(全6編)」。笑いを誘うキャラクタ設定と会話劇、かつ高品質なミステリが合わさった良作だ。
東川篤哉の作品の良さはキャラ設定の面白さにある。今作もそれが光っている。語り手である宝生麗子は、大企業である宝生グループの一人娘。蝶よ花よと大切に育てられ、何不自由なく大学を卒業。しかし彼女も現代の女性。このまま花嫁修業の家事手伝いなんて嫌だし、だからと言って親の企業で働くのなんてもってのほか。と言うわけでお堅い公務員=刑事に就職。もっとも彼女は立場を弁えた性格なので、某富豪刑事のごとくお金の力を振りかざすようなことはない。それどころか身分を隠して一般女性として振る舞っている。しかし、バーバリ−のパンツスーツを「丸井国分寺店の安物」、アルマーニの眼鏡を「メガネスーパーでサンキュッパ」と偽って地味に着こなす大胆さはちょっと楽しい。刑事としては別に頭が悪いわけではないのだけれど、しかしものすごくきれるわけでもなく、コナン・ドイル的に言うとワトソンポジ。そのため、かしずかれるべき探偵役の執事から慇懃無礼な態度で馬鹿にされるのが彼女の宿命となっている。
そして馬鹿にする方、執事の影山だが、こちらはかなり癖の強い人物。表面上は仕事に実直で、非常に丁寧。誰に対して常に礼儀を忘れない。けれど、時々(いや、割と頻繁に?)その恭しい言葉で、お嬢様への鋭い毒舌を発揮する。推理を説明するときは特に激しい。曰く「お嬢様はアホでございますか?」、「お嬢様の目は節穴でございますか?」「お嬢様、しばらく引っ込んでいてくださいますか」。話が進むにつれ執事もだんだん慣れてきたのか(もしくは2人が打ち解けてきたからなのか)、かなり大胆にお嬢様をからかい、お茶目な毒を吐く。それに対するお嬢様の「ワイングラスをへし折る」等のリアクション芸もあり、この2人の絡みはかなり楽しめる。
 主要な登場人物は、この2人に風祭警部と言う人物を加えた3人。事件パートは風祭&お嬢様、推理パートはお嬢様&執事という進行。風祭警部だが、特に紹介に値しないのでここでは割愛。レギュラーなのに単行本の表紙で微妙にはぶられているあたりからも(ちゃんといるじゃないかって?本屋で購入しようとするとわかる!)、その存在価値は推して知るべし。それでも説明するなら、うざい人の一言に尽きる。
キャラクタの魅力についてはこれくらいにして、推理部分について。読んだ感想としては、かなり正統派のミステリ。事件パートでヒントを提示し、推理パートで一片に回収する。ミステリの要素に限れば、これ以上ないくらいに無駄がなく、洗練されている。ものすごく壮大な謎という感じではないが、おお、と思わせる仕掛けは十分。しかも一話あたり40〜50ページの話でこのクオリティを維持しているのはかなり素晴らしい。さらに言えば執事とお嬢様の茶目っ気溢れる会話は、説明的になりがちな推理パートに一切退屈を感じさせない。短編でサクサク読める×良質なミステリ×謎解き会話が飽きさせない=一気読み!の式が成り立つ。私自身途中で足踏みせずに本を読んだのは久しぶり。エンターテイメント、ミステリ両面から見て十分に納得いく本だ。
 と言うわけで、「謎解きはディナーのあとで」。非常に面白いので、ちょっと読んでみてはいかがでしょう?
Text by 蓬莱ニート