「内田百けん」

内田百けん (ちくま日本文学 1)

内田百けん (ちくま日本文学 1)

 2008年にちくまから出ているまとめ本を買ってから、3年の時を経てようやく読了しました。いやー、積み過ぎたなー。
 それはさておき、この本は短編、長編含めた百けんの37作品が収録されています。小説も面白いのですが、しかしやはり随筆が凄まじい。もう滅茶苦茶面白いです。何かの雑誌で森見登美彦氏も大好き言っていた百輭ですが、これを読むと森見登美彦氏のルーツがこの作家にあることがはっきりとわかります。
百けんはとにかくわけのわからない考え方で生きていた人で、妙なところで変に頑固、それでいて突拍子もなく優柔不断といった偏屈な方。しかしただの偏屈では終わらず、ものすごく特殊な感性を(つまり、馬鹿みたいに面白い突っ込み所を)持った方で、その面白すぎる人間性と思考回路は随筆の中にあふれんばかりに書かれています
 爆笑したのが借金の話。
 この話は、借金術の大家であった(一体どういう術なのか……)百けんが、自分の借金の経歴の中での感想を語っているお話で、最初からへ理屈連発のとんでもない随筆なのですが、中でも次の話は凄かったです。曰く「金を稼いでいるような奴は、自分の金を使っているのだから、お金のありがたみなどこれっぽっちも分からない。借金をして、他人のお金を使ってこそ、お金のありがたみがわかる。また、借りるお金も金持ちから借りたのでは、たくさんあるところから借りたに過ぎず、対してお金のありがたみは分からない。貧しい人から借りてこそ、お金のありがたみがわかる、欲を言えば、同じく借金をしている人の、その借金の内側から借りることで、より一層お金のありがたみがわかる」
 爆笑しすぎて腹筋が割れるかと思いました。恐らくこんなことを考えられる人は、後にも先にも百けんだけだと思われます。他にも突っ込みどころ満載な、彼独特の随筆が何作かあり、読みごたえのある爆笑の一冊となっています。
text by 蓬莱ニート