私は目を疑った。冒頭から木が空を飛んで敵軍をなぎ払ってる。「まあ、アイヌの伝承だし……」と油断してはいけない。この鳥飼否宇という作家、wikipediaに躊躇なくバカミスを書いていると断言されるほどの人物である。過去作で冷凍イカの投擲による殺人なんてことをやらかした作家である。冷凍イカでの刺殺は相棒でもやっていたが、なんせ投擲である。人体を貫通して背後の水槽に落ちる威力。鉄甲作用。体は剣で出来ている。いやああれは傑作だった。いつかレビューを書こうと思う。
 閑話休題。今回紹介する「樹霊」は、過去作である「中空」「非在」と世界観を共有している。読まなくても問題ないが、読まないと探偵の登場に少々唐突さを感じるかもしれない。さてさて、ストーリーだが、アマゾンから引用する。

植物写真家の猫田夏海は北海道の撮影旅行の最中、「神の森で、激しい土砂崩れにより巨木が数十メートル移動した」という話を聞き、日高地方最奥部の古冠村へ向かう。役場の青年の案内で夏海が目にしたのは、テーマパークのために乱開発された森だった。その建設に反対していたアイヌ代表の道議会議員が失踪する。折しも村では、街路樹のナナカマドが謎の移動をするという怪事が複数起きていた。三十メートルもの高さの巨樹までもが移動し、ついには墜落死体が発見されたとき、夏海は旧知の“観察者”に助けを求めた!“観察者”探偵・鳶山が鮮やかな推理を開陳する、謎とトリック満載の本格ミステリ

 と上記のように謎とトリック満載の本格ミステリであるらしい。巨樹が移動し、辺りに一抹の不安を残しつつ読み進め……いや、大嘘である。私はちょっとは鳥飼否宇のことを知っている。お前夢でもみたんだろハハハで終わる作家ではない。もう間違いなく巨樹は移動してとんでもないことをやるのを確信しつつ読み進めた。ら、街路樹は勝手に動き、巨木が山の斜面を駆け上がり、挙句の果てに
霊樹が突進して ラ リ ア ッ ト で人を殺していた。
 ネタバレであるが、殺人の偽装工作ではない、ガチである。ちなみに本作は謎とトリック満載の本格ミステリである。
 あまりの光景に「もうゴールしてもいいよね……」という言葉と共に本をカバンにしまってゾロアークの孵化作業に戻りかけたが気をとりなおして読む。

 するとどうだろう、探偵が登場してからというもの、あらゆる謎、というか不条理といって良いレベルの出来事が理路整然と解決されていく。人為的なものであるにしては目的が全くわからない謎の数々を完璧に解き明かし、犯人を指摘するシーンで私はこの作者は天才であるということを再確認した。
 本作の難点としては、鍵の在処とか自殺か他殺かとか、登場人物たちの行動原理など、そういういわゆる本格ミステリっぽい仕掛けが霊樹ラ リ ア ッ トにぶっ飛ばされて大して興味を持てないことだろうか。割とよく練られていると思う。あと、犯人の指摘がほぼ不可能というのもマイナスポイント(あれ黙秘されたら決め手無いよね?)。
 犯人の動機についての探偵とのやりとりは思わず感心した。某団体にきいてもらいたいわホント。
 いろいろ言いたいことはあるが、木々が動きまわるとんでもないトリックを完成させた本作は間違いなく傑作である。

ところで記事のタイトルがバグってるんだが何が原因だろうか……。


ちなみにゾロアークだがめざパ氷67で妥協した。サンダースの10万をギリギリ耐える個体値しか無いがまあ満足。

byアヤメ