インシテミル

どうも。
引き続き「毒蔵」の話題で。今回は書評した本についてです。
私が書かせてもらったのは米沢穂信著「インシテミル」です。
今回はテーマが「人生を歪める本」というものだったので、その傾向に沿うように文章を作ってみました。ただ言い回しがかっこつけすぎな感があります。その時ちょうど奈須きのこ氏にはまっていたのが影響したと思われます。
書評に関しては、そういうわけで一面だけを切り抜いたものとなっています。なのでもう少し書いておこうかと思います。

インシテミルの面白いところはやはり舞台装置でしょう。
本作はいわゆる「館もの」と言われるジャンルです。ある屋敷に集められた客たちが、館から出られなくなり、そこで連続殺人が起こる……。そういう筋立ての奴です。
多くの作品では孤島や山荘といった場所に館を置き、嵐で島に近づけないとか雪で外に出られないといった状況を作って登場人物たちを閉じ込めます。コナンや金田一でお馴染みですね。
ところが本作ではその状況を実験と称して人為的に作り出します。館に被験者を閉じ込め、しかも初対面で関係の薄い被験者が殺人を起こすように彼らを仕向けます。
まさに狂気の沙汰、ですね。
被験者はまた違う方向で狂って行きます。
集められた彼らは、当初殺人のリスクを負う必要性はまったくないという方向性でまとまりました。何もしなくても一週間の時給は莫大な金額だったからです。
なのに第一の殺人が起こった。彼らに生まれえた疑心暗鬼は容易に想像できると思われます。
第二、第三と殺人が続くにつれ、徐々に心労と疲労が彼らを支配し、今度は通常の感覚を逸していきます。……いや、あるいは通常の感覚、とも言えます。例えば、毎日バイトをしていれば、最初のころより疲れなくなるように。他人の死に慣れ、最初に思うことが人の死を悼むことではなく、後始末がうっとおしいと思うような感じに。第三者視点としはかなりハードですね。

救われないなー、という作品なのですが、主人公の楽天的な性格のせいか、うんざりするほど鬱々とはしていません、実は。さらに最後の解決シーンは個人的にかなりの盛り上がりを見せたと思います。トンネルを抜けたら青空満点の空だった、そんな気持ち良さが味わえると思います。
トリック部分も難解です。心理、論理、舞台装置、全てがかち合ってようやく解ける、そんな感じです。ぜひ挑戦してみてください。
最後に。
本作でもっとも怖いのはたぶん、諏訪名祥子さんだと思われます。当事者なのに第三者。状況にそぐわない人物ほど怖いものはないと思います。だからこそ美しいともいえますが。



text by 蓬莱ニート